FCD400など、「球状黒鉛鋳鉄品」の特性と用途
ねずみ鋳鉄は鋳造性が良く、振動減衰能に優れる材料ですが、黒鉛形状が片状であるために引張強さや伸びといった機械的性質に劣るという特性があります。
一方、溶湯にマグネシウムやFe-Si-Mg合金などを添加して鋳造することで、黒鉛形状を球状にすることができます。このような鋳鉄を球状黒鉛鋳鉄と呼び、強度が高く、伸び・靭性も高いという特長があります。球状黒鉛鋳鉄は延性に優れることから、ダクタイル鋳鉄とも呼ばれています。
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛形状
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛形状は通常は球状ですが、球状化剤の添加量により形状が変化します。 国際規格のISO945-1に記載された鋳鉄の黒鉛形状の分類を図1.に示します。
形状Ⅰは片状黒鉛で、球状化剤を添加しない一般的なねずみ鋳鉄の黒鉛の形状です。
形状Ⅱは球状化剤が多すぎた場合に生じる黒鉛形状です。
形状Ⅲは球状化剤が少なかった場合に生じる黒鉛形態で、いもむし状のCV黒鉛鋳鉄がこの形状のものです。
形状Ⅵが完全な球状黒鉛で、通常の球状黒鉛鋳鉄はこの形状になります。
球状黒鉛鋳鉄品のJIS規格は2022年に改正されました。球状黒鉛鋳鉄の種類の記号や機械的性質の値などが改正されています。本稿では従来(2001年)の規格と、現在(2022年)の規格の一部を抜粋して説明します。
JIS G 5502:2001
上記に規定された球状黒鉛鋳鉄品の種類の記号を表1.に示します。これらの記号の意味を、FCD400-18ALを例にして説明します。
FCDは球状黒鉛鋳鉄を意味します。400などの数字は供試材の引張強さの下限値を表します。
また、18などのーに続く数字は供試材の伸びの下限値を表します。記号の末尾の文字Lは低温衝撃値が規定されていることを表します。また、文字Aは本体付き供試材によるものであることを表しています。
機械的性質を試験する試験片は、鋳鉄品とは別に鋳込んだ試験片鋳物から採取する場合(別鋳込み供試材)と、鋳物本体に取付けて鋳込んだ試験片鋳物から採取する場合(本体付き供試材)があります。通常は別鋳込みのY字供試材(通称、Yブロック)のB号から切り出した試験片が用いられます。
JIS G 5502:2001で規定された別鋳込み供試材の機械的性質を表2.に示します。片状黒鉛鋳鉄ではC量または炭素当量(CE値)が機械的性質に影響しますが、球状黒鉛鋳鉄ではC量の影響は小さく、基地組織が大きく影響します。基地組織が柔らかいフェライトの場合は引張強さが低く、伸びが大きくなります。基地組織のパーライト(フェライト+セメンタイト)の割合が多くなるにつれて、引張強さは大きくなり、伸びが小さくなります。
JIS G 5502:2022の主な改正点
2022年版の主な改正点を以下に示します。
①鋳鉄品の基地組織により2種類の「区分」が設定されました。
②機械的性質を測定する試験片を採取する方法が追加され、下記の4種類になりました。
(1)別鋳込み供試材 (2)共込め供試材 (3)本体付き供試材 (4)切り出し供試材
③種類の記号が追加されました。概要は後述します。
④引張特性および衝撃特性の値に対象肉厚区分が設定されました。概要は後述します。
JIS G 5502:2022に規定された球状黒鉛鋳鉄品の区分及び種類の記号を表3.に示します。
従来との主な変更点は下記です。
・基地組織により2種類の区分が設定されました。
区分SGI;フェライト、パーライト、又はその両方を含む基地組織からなる鋳鉄品
区分SSSGI;固溶強化した主にフェライト基地組織からなる鋳鉄品
・記号の末尾にRが追加され、室温での衝撃特性が規定されていることを表します。
SGIの鋳造試験片の引張特性の変更点を、FCD400を例に表4.に示します。
従来との主な変更点は下記です。
・対象肉厚区分が追加され、肉厚ごとに特性値が設定されました。
・記号の末尾の/Sは、別鋳込み試験片を用いた場合に付記します。
・記号の末尾の/Uは、共込め試験片又は本体付き試験片を用いた場合に付記します。
・鋳物からの切出し試験片の場合は、記号の末尾に/Cを付記します。
SGIの鋳造試験片の衝撃値の変更点を、FCD400を例に表5.に示します。
従来との主な変更点は下記です。
・対象肉厚区分が追加されました。
・肉厚に応じた吸収エネルギー値が設定されました。
なお、詳細についてはJIS G 5502:2022を確認してください。
球状黒鉛鋳鉄の特徴と用途
球状黒鉛鋳鉄の特長は、ねずみ鋳鉄に比べて強度が高く、伸び・靭性も高いということです。ねずみ鋳鉄と鋼の中間的な強度特性を持ち、自動車部品などの強度、靭性が必要とされる部品に用いられています。
ただし、ねずみ鋳鉄に比べて鋳造時に引け巣が発生しやすいため、鋳造方案の最適化が必要とされます。
球状黒鉛鋳鉄の主な用途は自動車部品で、ナックルなどの足廻り部品をはじめ種々の部品に使われています。自動車部品以外では水や油、ガスなどの配管(鋳鉄管)に球状黒鉛鋳鉄が多く用いられ、これらはダクタイル鉄管とも呼ばれています。
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今回は、FCD400など、「球状黒鉛鋳鉄品」の特性と用途について紹介させて頂きました。砂型鋳造の委託先を探している皆様、お気軽に当社にご相談ください。
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