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熱処理方法の違いや強度向上メカニズムについて説明します。

工程の違い
T5:鋳造→時効処理
T6:鋳造→溶体化処理→水焼入れ→時効処理

〇熱処理による強度向上のメカニズム
Al中には凝固した固体の状態でも、CuやMgSiが溶け込みます。
溶け込んだCuやMgSiを約160℃程度の温度で時効処理するとCuやMgSiが微細に析出します。
これを析出物と呼び、析出物が多いと強度、硬さは高くなります。
析出物のもとは、Al中に溶け込んでいるCuやMgSiです。
溶け込んでいるCuやMgSiの量が多いほど、析出物が多く強度、硬さは高くなります。

〇T6とT5の違い
Al中に溶け込むCuやMgSiの量は溶解度(温度)の影響を受けます。
温度が高いほど溶解度は大きく、温度が低いと溶解度は小さくなります。
水やお湯に溶け込む塩や砂糖の量と同じです。

以下は、あくまでたとえ話しです。

鋳造時の溶湯(700℃)にはCuやMgSiが100の量、溶け込んでいたとします。
鋳造後、室温まで冷えた鋳物では溶解度が小さいために、CuやMgSiは20しか溶け込めません。
残りの80はAlとの化合物として晶出(結晶化)してしまいます。
T5処理は溶け込んだ20の量のCuやMgSiを時効処理で析出さる処理です。

一方、T6処理は鋳物を約500℃程度まで加熱します(溶体化処理)。
加熱することで溶解度が大きくなり、500℃では80の量のCuやMgSiが溶け込みます。
この状態から、ゆっくりと室温まで冷すと溶け込む量は20になってしまいます。
しかし、水で急冷することで室温になっても60の量が溶け込んだままになります。
この60の量のCuやMgSiを時効処理することで、強度、硬さがT5よりも高くなります。

ちなみに、ダイカストは鋳造時の凝固速度が速いため、鋳造後に室温まで冷えても40の量のCuが溶け込んでいます。
溶け込んだCuが室温でも若干は析出するため、ダイカストはF材でも鋳物よりも強度、硬さが高くなります。

T5とT6処理の違いは、硬さを高くする時効処理を行う際に、Al中に溶け込んでいるCuやMgSiの量の違いによるものです。